清水國明 執筆原稿
2007年10月号
『ドゥーパ』
森と湖の楽園の僕のツリーハウスが「のび太の漫画ツリーハウス」になって、どこにも住むところが無くなったので、さらに森の奥に入って暮らすことにしました。ベットルームと、風呂とトイレの二棟を建てました。組み立て式の小さいマシンカットのログを簡単に置くだけにするつもりが、そんなものでも建築確認やら構造計算やらと言われたのでスッパリやめて、規制が少ないもっと小ぶりのオモチャみたいな二棟にしました。さてそこで暮らそうと思ったら、建ってから「ありゃ、台所が無い・・・」と気づいたのです。
この森の家での食事はいつものように、野外の焚き火でいいや、と安直に考えていました。ところがそんな甘い考えを覆すような事件が起きたのです。その日はガスボンベを運んで、デッキでスパゲッティーを茹でていました。好物の明太子をまぶし、さらに特別にシーチキンまでトッピングして大満足。さて食べようとしたとき、テーブルの上の鍋がちょっと邪魔に思えて下へ下ろすために持ち上げました。キャンプ用の鍋で、収納しやすいように可動式の取手がついていたのです。ガッチャーンと落下。すばやく体をひねったので、運よく熱湯は足にかかりませんでしたが、運悪く、できたばかりのスパゲッティーの上に、ドカッと鍋が落ちて、デッキの床にドバッと・・・。
誰も見ていなかったら3秒ルールを適用して、反射的に2、3口は拾い上げて食べていたかもしれません。それほどおいしそうだったし、それほど空腹だったのです。
「夏はソーメンに限るね・・・」と負け惜しみを言いながら、それしか残っていなかったソーメンをすすりました。やはりちゃんとした台所が要るとしみじみ思ったのです。で、もう一棟、短時間でエイヤッと建てることにしました。
このログハウスは、いつものようにノッチを刻んですべてを横に組んでいく方法では無理です。時間がありません。
で、工法をピース&ピースにしてスケジュールを短縮することに。柱を立ててその間に丸太を落とし込んでゆくやり方。さらに丸太をあきらめ、実加工した3センチ幅の板を製材所で作ってもらい、はめ込むだけにしました。
であれば、土台と柱、小屋組みだけで完成します。柱の溝も彫らず、角材二本で手抜きしました。けれど今回は基礎工事から屋根作業まで、ずっと一人。ボイド管という坪基礎造りでおなじみの紙のパイプを買ってきて、セメントと砂と砂利を混ぜてその中に流し込むのですが、これが大変でした。重くて腰にきます。近くで工事していた人たちが見かねて、「コンクリ余ったからあげようか?」と親切に声をかけてくれて、まさに地獄で仏。
自然暮らしの会や地元の大工仲間も手伝ってくれて、まあまあのペースで進んでいました。ところが一段目の丸太をノッチ加工しようとチェーンソーで刻んでいたとき、ほんとに、めったに無いことですが、バーの先が暴れて左足の甲を切ってしまったのです。病院で15針縫う怪我。前日、120人を引き連れて富士山山頂までのご来光ツアーに出かけた後だったので、疲れていてチェーンソーを押さえ切れなかった、のかも。
でも最大の原因は、時間的な焦りでした。間に合わんぞこりゃ、という焦りで粗雑に扱っていたので、キックバックが発生したのです。深く反省。
今回、材木はすべて敷地内で調達していたのですが、太くて長い棟木用のカラマツが必要になって、森と湖の楽園に出現した「ドラえもんのふれあいの森」から頂戴することにしました。森と緑を守ろう、というテーマの新作映画のキャンペーンで展開されているタイアッププロジェクトです。そんなテーマの森を伐って材木を頂いてくる後ろめたさに苛まれながらも、とにかく時間が無くて、子どもたちがいないときを見計らって伐採してきました。
足場も組まず、クライミングのザイルで体を固定してカネ勾配の屋根を葺き、何とか完成。忙しくて、暑くて、痛かった夏が終わりました。