清水國明 執筆原稿
2007年12月号
月刊『リゾート物件情報』 「清水國明の河口湖自然楽校便り」
熊本県天草市にある無人島「亀島」に、毎年もう9年も通っています。天草漁協前の港には自分の漁船「國明丸」が係留してあり、年に数回しか出航しない出番を待っています。
「亀島」は周囲2キロくらいの小さな無人島で、引き潮になると歩いても渡れます。
海がいわば天然のゲートになるので、セキュリティーは抜群。はじめ荒地をちょっと切り拓いて自分だけキャンプしていましたが、すごくいい島なので町役場の人や老人会の人たちと協力してログハウスも建てて、みんなが利用できるキャンプ場に整備しました。長女、次女、三女、そして妻の5人で、夏になるといつもこの島で過ごしていたのですが、何年か前からは一人で出かけるようになりました。気持ちがひとつにまとまらない、家庭不和というやつですね。会うたびに大きくなってゆく娘たちを見るのを楽しみにしていた島のお年寄りの人たちが、「今年はひとりかね・・」とガッカリするのが申し訳なくて・・・・。でも、それまで向き合っていた夫婦が、それぞれ違う方を向いて違う夢を追いかけるようになってしまったので、そんな状態で無理して一緒に出かける方が不自然なので、ありのままで行動していました。家族がそれぞれ4ヶ所に分かれて暮らしています。どんなに仲良く過ごしていても、家庭ってこんなにすばやく、あっけなく壊れてしまうものなのだと自分でも驚きました。妻と離婚の手続きを済ませ、河口湖の森の中で暮らすようになって4年。その間僕を支え、一緒に事業に取り組んで苦労してきてくれた女性スタッフと結婚し、子どもも産まれました。友人の嘉門達夫は「狭いとこに閉じ込めておくと次々と子どもを生んで増殖する、グッピーのような男だな」と言っています。通算4人目になりますが、はじめての男の子で、「国太郎」と命名しました。実は祖祖父の名前が國太郎といいます。この爺さんは福井の山奥の田舎者のくせに株で大もうけして、村の中を芸者さん引き連れて歩くようなトンデモ爺さんで、挙句に騙されて借金の保証人になりスッテンテンになったご先祖様です。財産は失ったけれどみんなに愛されたお人好しだったようです。「国太郎」には「みんなに好かれて、お前がやることをみんなが喜ぶ、そんな人間になれ」と言い聞かせています。結果としてみんなが喜ぶ存在になれたら、それが成功人生になると思っています。
これまで僕は、いい社会を作るためには社会の最小単位である家族が良くならなければならない。それぞれの家族のために男は、なりふり構わず働いて自分の家族を幸せにする義務がある、と考えていました。大勢の家族が集まるイベントではいつも、「僕は僕の家族の面倒しか見ません。それぞれのお父さんが自分の家族の面倒を見るようにしてください」と言っていたのです。アウトドアではお父さんがヒーローになるべき、という想いからですが、人の家族の面倒なんて見てられない、という心の狭さも確かにありました。自分の家族さえ楽しめて、幸せになればいい、という利己の心ですね。けれど僕は、自分の家族だけは責任もって幸せにする、という利己が沢山集まれば、幸せな家族が増えて、結果幸せな社会が出現すると考えていたのです。けれど自分たちさえ良ければいいという家族が沢山集まった社会というのは、どんなもんでしょう。自分のことだけ考え始めたら、組織も個人も萎縮してゆく道しか残されていない、という鉄則に気づいていませんでした。
幸せになりたいという思いが、競争社会の中でいつしか、自分たちだけは幸せになるぞ、という集団利己に変質していって、やがて「たち」が取れて、自分だけはに矮小化して、そして誰もいなくなる、という滅びの道です。自分たちだけが幸せになって楽しめればいい、と思い始めた清水家に、風が吹いて雷が落ち、解散命令が下されたのです。
バラバラになってしまった子どもたちと何年かぶりに会ったとき、それぞれ多くの人に支えられて、元気に活躍していました。僕が言っていたような、自分の家族の幸せしか考えない人たちばかりの世の中だったら、子どもたちはサバンナに取り残された子羊のように、たちまち猛獣の餌食になっていたでしょう。赤の他人の子どもを育み、活かしてくれる人たちの「お陰」様で、自分の勘違い、大きな過ちに気づかせてもらえました。
新たな子を授かり、新たな家庭を持った今、進むべき道ははっきりと見えています。「国太郎」には、その存在がみんなの喜び、希望になるような子になって欲しい。
みんなの幸せが自分の幸せに直結している人生を歩んでもらいたい。親としてそんな人生になるための環境整備に、全力を注ぐことにします。反省とやり直しを命ぜられたこの家族は、萎縮ではなく拡大の道を選び、これまでの家族、子どもたちをも包み込む、大きな心と経済力を持った、大きなファミリーを目指します。いつか亀島で、みんな仲よく暮らす日がやってくる。そう思えて仕方ありません。